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東京地方裁判所 昭和52年(行ウ)19号 判決 1979年8月22日

原告

ハンター・ダグラス・インターナシヨナル・リミテツド

被告

特許庁長官

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1当事者の求めた裁判

①  原告

1  原告が昭和49年9月19日にした特許番号第653638号の特許権に関する第4年分の特許料の納付につき、被告が同年12月25日にした不受理処分を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決

②  被告

主文と同旨の判決

第2当事者の主張

①  原告の請求の原因

1  不受理処分に至る経緯

(1) 原告は、昭和39年9月21日名称を「天井または壁のライニング」とする発明につき特許出願(昭和39年特許願第53827号。以下、「本件出願」という。)をし、その後昭和43年3月4日及び昭和44年4月1日それぞれ手続補正書を提出して、願書に添附した明細書の特許請求の範囲の記載等を訂正した。

(2) 被告は、本件出願につき、昭和45年9月10日発行の特許公報(甲第1号証。以下、「第1回公報」という。)により出願公告(昭45―27751号)をし、次いで、同年11月27日特許庁審査官において特許をすべき旨の査定をし、同査定謄本は同年12月22日原告に送達された。

(3) ところが、上記出願公告は、前記第2回目(昭和44年4月1日)の手続補正書による補正を看過して、特許請求の範囲の記載等を誤つて掲載したものであつたため、被告は、昭和46年3月10日前記査定謄本は誤送されたものであるとして原告にその返送を求めるとともに、同年6月14日出願公告番号を「昭46―27751」、出願公告日を「昭和46年(1971)9月10日」とし、かつ、上記第2回目の手続補正書による補正の内容を取り入れた特許公報(以下、「第2回公報」という。)を発行した。

(4) 次いで、特許庁審査官は昭和47年4月14日本件出願につき、再度、特許をすべき旨の査定をし、同査定謄本は同年6月6日原告に送達された。原告は同月12日第1年分から第3年分までの特許料を納付した。そこで、被告は同年7月25日本件出願につき特許権の設定の発録をした(特許番号第653638号。以下、「本件特許権」という。)。

なお、被告は昭和47年8月22日原告に特許証を交付したが、上記特許証には特許番号が誤つて「第653738号」と記載されていたため、被告は、同年12月18日原告に対し、上記特許証を破棄するよう指示する旨の書面及び正しい特許番号を記載した特許証を送付した。

(5) しかして、原告は昭和49年9月19日被告に対し、本件特許権の第4年分の特許料(倍額)の納付書を提出したところ、被告は、同年12月25日同納付書につき、権利消滅後の提出であることを理由として、これを不受理とする旨の処分(以下、「本件不受理処分」という。)をした。

(6) 原告は、昭和50年3月7日被告に対し、本件不受理処分につき行政不服審査法に基づく異議申立をしたが、被告は昭和52年1月28日上記申立を棄却する旨の決定をし、同決定書謄本は同月29日原告に送達された。

2  不受理処分の違法性

本件不受理処分は、以下に述べるとおり違法であつて、取消されるべきものである。

(1) 第1回公報は、前記のとおり特許請求の範囲を誤つて掲載したものであるから、同公報による出願公告は、手続下重大かつ明白な瑕疵があるものとして無効というべきである。そして、被告は、第2回公報を発行することによつて、第1回公報による出願公告を撤回するとともに、本件出願につき改めて出願公告をしたものとみるのが相当である。したがつて、第1回公報による出願公告が有効に存在することを前提とする本件不受理処分は、無効であるか又は少なくとも取消を免れないものである。

(2) 仮に上記の主張が認められないとしても、原告は、第2回公報における出願公告日の記載が正しいものであつて、同公報により、第1回公報による出願公告は撤回されて新たな出願公告がされたものと信じ、その結果、前記のとおり昭和49年9月19日被告に対し、第4年分の特許料の納付書を提出したものであり、かつ、上記のように信じたことにつき過失はなかつたものである。

すなわち、原告は、昭和46年9月頃社団法人発明協会から第2回公報(甲第2号証)を入手し、同公報には特許請求の範囲が正しく記載されていること及び出願公告日が昭和46年9月10日と記載されていることを確認した。そして、原告が入手した上記第2回公報には、「特許公報の訂正」と題する文書は添付されていなかつたばかりか(乙第1号証参照)、「特許公報の訂正」との文言がその公報に一体として記載されていたわけでもない(甲第8号参照)。また、出願公告に関する公報掲載事項の訂正が行われる場合においても、出願公告番号及び出願公告日がともに訂正の対象になるということは、通常ありえないところである。加えて、被告は、昭和46年当時商標登録出願につき、当初の出願公告に誤りがあるとしてこれを撤回したうえ、再度、出願公告をした例がある。以上のとおり、第2回公報は、単に原告ばかりでなく、第3者がみても、これによつて新たな出願公告が行われたと解釈せざるをえない態様のものであるから、原告がそのように信じたことに過失はない。

ところで、第2回公報における出願公告番号及び出願公告日の記載が誤記であるにしても、これは被告の一方的な過誤に基づくものであり、他方、出願公告日いかんは、それがいわゆる仮保護の権利の発生、特許権の存続期間及び特許料の納付期限の算定の各起算日となるほど、出願人である原告の利害に重大な影響を及ぼすものであるから、被告としては、単にその訂正を後に発行する特許公報に掲載するだけでは足りず、原告に対し、直接その訂正を通知するなどの措置を講ずべき信義則上の義務を負うものというべきである。

しかるに、被告は、何ら上記のような措置を講ずることなく、本件不受理処分に及んだものであるから、本件不受理処分は違法であつて、取消を免れない。

3  よつて、原告は本件不受理処分の取消を求める。

②  請求の原因に対する被告の認否

1  請求の原因1は認める。

2  同2は争う。

③  被告の主張

1  被告は、昭和45年9月10日発行の第1回公報により本件出願につき出願公告をしたが、誤載があつたため、昭和46年6月14日発行の第2回公報により上記出願公告に関する公報掲載事項の訂正の公示をした(乙第1号証)。ところが、上記訂正の公示においても出願公告番号及び出願公告日を誤つて掲載(掲載した公告番号、公告日は原告主張のとおり。)したため、被告は、同月25日発行の特許公報(乙第2号証。以下、「第3回公報」という。)によつて、第2回公報による上記訂正を削除するとともに、改めて第1回公報による出願公告を訂正した。ちなみに、第3回公報には、「公告日は昭和45年9月10日とする。従つて、仮保護の権利発生日、権利の存続期間の起算日は最初の公報掲載日となる。」との記載がある。

そして、最初の公報掲載日は昭和45年9月10日であり、本件特許権の第4年分の特許料の納付期限は昭和48年9月10日(追納期限は昭和49年3月10日)であるところ、原告が上記第4年分の特許料の納付書を被告に提出したのは、上記追納期限の後である昭和49年9月19日であるから、これに対する被告の本件不受理処分は適法である。

2  請求の原因2(1)の主張について

第1回公報による出願公告には重大かつ明白な瑕疵はないから、これを無効ということはできない。仮に上記出願公告において特許請求の範囲を誤載したことが何らかの瑕疵に該当するとしても、上記瑕疵は本件不受理処分の違法を招来するものではなく、また、上記瑕疵は第3回公報による訂正によつて治癒されたというべきである。

さらに、出願公告があつたときは、何人も法定の期間内に特許異議の申立をすることができ、一方、出願人にはいわゆる仮保護の権利が発生するほか、特許権の存続期間が開始することになるほど、出願公告は、多数の関係人に影響を及ぼす重要な法的効果を伴うものである。

したがつて、仮に出願公告に瑕疵がある場合においても、これを撤回して新たな出願公告をすることは、法律関係の安定を害する結果になるから、許されないものというべく、本件についても原告主張のような解釈が成立する余地はない。

3  請求の原因2(2)の主張について

原告の上記主張も次に述べるとおり理由がない。

(1) 出願公告日は、出願公告という事実によつて客観的に定まるものであり、これが、後の訂正の公示において誤載されることなどによつて変動することはありえないところ、第4年分の特許料の納付期限は、出願公告日から3年を経過する前(追納期間6か月)と明確に規定されているのであるから(特許法第108条第2項、第112条第1項)、上記特許料の納付の適否を判断するにつき、これを納付すべき者が出願公告日を誤信したか否かなどという主観的事情は、そもそも問題とならない。

(2) 仮に上記の主張が認められないとしても、原告が前記第4年分の特許料の納付書を被告に提出するに至るまでの次のような経緯を総合すれば、原告が本件出願の出願公告日を昭和46年9月10日と誤信したとは到底考えられないし、仮にそのような誤信があつたとしても、上記誤信につき過失を免れないものというべきである。

(1) 昭和46年6月14日発行の第2回公報には、「仮保護の権利の発生日、権利存続期間の起算日は最初の公報掲載日とする。」との記載があるから、最初の公報掲載日である昭和45年9月10日が出願公告日であることは、容易に知りえたはずであり、しかも、原告は上記第2回公報をその発行日頃入手、読了したと推察されるところ、同公報に出願公告日として記載されている「昭和46年9月10日」は、同公報の発行日より約3か月も先の日付けであるから、これが誤記であることは明らかであつたこと。

(2) 被告は、昭和46年6月25日発行の第3回公報により第2回公報における誤載を削除したこと。

(3) 被告が原告に送達した昭和45年11月27日付け及び昭和47年4月14日付けの各特許査定謄本(乙第9号証の1、2)には、いずれも「出願公告昭和45年9月10日(特公昭45―27751)」と記載されていること。

(4) 本件特許権にかかる特許登録原簿(乙第5号証)にも、出願公告日は「昭和45年9月10日」と記載されていること。

(5) 被告が特許法第28条、特許法施行規則第66条第1、第2項の各規定に基づき、原告に対し、昭和47年8月22日に交付し、また、同年12月18日に送付した本件特許権にかかる各特許証(乙第7号証、第8号証の1)には、いずれも第3回公報が添付されていたこと(上記乙第7号証及び第8号証の1の各特許証には、公報をホツチキスで添綴した跡がある。なお、上記各号証は、被告が本件出願に関する原告の代理人であつた弁理士秋山武から乙第8号証の2の文書とともに入手したものである。)。

(6) 被告が、特許法第66条第3項の規定により、本件特許権につき昭和48年1月23日発行の特許公報に掲載して公示した特許目録(乙第10号証の1、2)にも、本件出願の出願公告番号は「45―27751」と記載されていること。

なお、被告が原告に対し、被告の行つた訂正を直接通知するなどの信義則上の義務を負うとの原告の主張は争うが、仮に被告にそのような義務があるとしても、被告は、前記のとおり正しい出願公告日を記載した昭和47年4月14日付けの特許査定謄本(乙第9号証の2)を原告に送達したから、これによつて原告主張の通知等の義務を果したと同様に証価することができる。

④  被告の主張に対する原告の認否及び反論

1  被告の主張1のうち、被告がその主張のような第3回公報を発行したことは不知、その余は争う。

2  同2は争う。

被告は、第1回公報による出願公告の瑕疵は、第3回公報における訂正によつて治癒されたと主張する。

しかしながら、出願公告の瑕疵を後の特許公報によつて訂正する場合は、その公報は、訂正公告のためのものであることが一見して明白であるような形態が採られなければならないところ、第3回公報はその趣旨に副うものではない。加えて、特許公報は大量にしかも不定期に発行されており、その出願公告目次も不備であるため、これらのうちから必要なものを発見することは、被告からの連絡がない限り、非常に困難なのである。したがつて、第3回公報における訂正は、これをもつて第1回公報による出願公告の瑕疵が治癒されたとするには不十分というべく、被告の前記主張は理由がない。

3(1)  同3(1)は争う。

(2)  同3(2)も争う。

1) (同項(1)について)第1回公報は特許請求の範囲を誤載したものであるから、これを訂正した第2回公報の記載、就中、その出願公告日の記載を原告が正しいものと考えたのは、当然である。

2) (同項(2)について)原告は、前記第4年分の特許料の納付書提出前に、第3回公報を入手していない。

3) (同項(3)について)昭和45年11月27日付けの特許査定謄本は、誤送であるとして被告が原告に返送を求めたものであり、しかも、昭和47年4月14日付けの特許査定は、先に返送した前記査定謄本と全く同様のものであつたため、原告は再び誤つたものが送付されてきたと判断したのである。

4) (同項(4)について)原告は、前記第4年分の特許料の納付書提出前に、特許登録原簿を参照したことはない。

5) (同項(5)について)昭和47年8月22日交付の特許証は、被告から破棄するよう指示があつたものであり、しかも、上記特許証には第2回公報が添付されていた可能性がある。また、昭和47年12月18日送付の特許証には、第3回公報ではなく、第1回公報が添付されていた(甲第6号証、第7号証の1、2)。

6) (同項(6)について)被告主張の特許公報による特許目録の公示は、原告において参照したことがないうえ、上記公報には出願公告日の記載はない(乙第10号証の1、2)。

なお、上記(3)及び(5)の事情を合わせ考えれば、仮に前記昭和47年4月14日付けの特許査定謄本に出願公告日が昭和45年9月10日と記載されていたとしても、上記査定謄本の送達をもつて原告主張の通知等の義務を果したと同視することは到底できない。

第3証拠関係

①  原告

1  甲第1ないし第5号証、第6号証の1、2、第7ないし第10号証提出。

2  証人秋山武の証言援用。

3  乙号各証の成立は全部認める。

②  被告

1  乙第1ないし第7号証、第8ないし第11号証の各1、2提出。

2  甲第7号証、第10号証の成立は不知、その余の甲号各証の成立は認める(但し、第6号証の1と2が一体であることは争う。)。

理由

1  請求の原因1の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

2  そこで、本件不受理処分に原告主張のような違法事由があるか否かにつき、順次判断する。

1 請求の原因2(1)の主張について

(1)  前記争いのない事実によれば、昭和45年9月10日発行の第1回公報による出願公告は、出願人である原告の昭和44年4月1日付けの手続補正書による補正を看過して、本件出願の願書に添附した明細書の特許請求の範囲の記載等を誤つて掲載したというものである。

しかしながら、上記出願公告における誤載は、それがひいては本件出願に関する出願公告であること自体を疑わせるような態様のものであれば格別、そのようなものであることを認めるに足りる証拠はなく、かえつて、出願人である原告はもとより、担当審査官においても、いわゆる出願公告決定前の補正として許容されるべきものと判断した程度の補正、すなわち、前記明細書中の特許請求の範囲の記載の訂正及び発明の詳細な説明の欄の記載の補充を看過して、上記補正前のそれを掲載したというにとどまるものであることも、前記争いのない事実及びいずれも成立に争いのない甲第1号証、第5号証によつて明らかであるから、上記のような誤載があるからといつて、直ちに前記出願公告が、重大かつ明白な瑕疵を内蔵するものとして、当然無効となるのではないことは、いうまでもない。この点に関する原告の主張は理由がない。

(2)  次に、前記争いのない事実及び成立に争いのない乙第1号証によれば、第1回公報による出願公告には、前記のとおり誤載があつたため、被告は、昭和46年6月14日発行の第2回公報において、「特許公報の訂正」と題し、「昭和45年9月10日発行の特許公報昭45―694(5―674)の中、特許出願公告昭45―27751号については誤載につき、別紙公報をもつて訂正する。(中略)従つて仮保護の権利の発生日、権利存続期間の起算日は最初の公報掲載日とする。」旨を掲載するとともに、上記別紙公報として、前記手続補正書による補正の内容を取り入れた明細書の全文及び図面を添附、掲載したことが認められる。

しかして、同1の出願につき、当初の出願公告を撤回したうえ、改めて出願公告をすることがそもそも許されるか否かの点の検討は、しばらく措くとして、上記認定事実によれば、被告は、第2回公報の発行によつて、第1回公報による出願公告を撤回して新たな出願公告をしたわけではなく、第1回公報による出願公告に前述のような誤載があつたため、第2回公報によつてこれを訂正したにすぎないことを認めるに十分である。もつとも、前掲乙第1号証によれば、第2回公報の前記「特許公報の訂正」と題する掲載文中には、「公告日は昭和46年6月14日とする。」旨の記載があり、また第2回公報に別紙として添附された前記公報には、出願公告番号が「昭46―27751」、出願公告日が「昭和46年(1971)9月10日」と記載されていることが認められるけれども、これらの記載は、同号証のその余の記載に照らして、誤記であることが明らかというべきであるから、到底前記認定を動かすには足らないし、ほかにこの認定を左右する証拠はない。上記説示に反する原告の主張は採用しない。

2 請求の原因2(2)の主張について

成立に争いのない甲第2号証、本件口頭弁論の全趣旨によりいずれも真正に成立したものと認めるべき甲第9、第10号証及び証人秋山武の証言によれば、原告の代理人として本件出願手続に関与した弁理士秋山武は、遅くとも昭和46年9月14日までに、社団法人発明協会から第2回公報(前掲甲第2号証のもの。同号証には、前掲乙第1号証と異なり、前記「特許公報の訂正」と題する文書は添附されていない。)を入手したところ(以下、「前記第2回公報」というときは、秋山弁理士が入手したものを指す。)、前記第2回公報は前記手続補正書による補正、就中、特許請求の範囲の記載の訂正を取り入れたものであつたため、同公報に出願公告日として記載されていた「昭和46年9月10日」に、同公報をもつて本件出願につき改めて出願公告が行われたものと考え、昭和46年9月14日付けの書簡をもつて原告にその旨報告したことが認められる。

しかしながら、一方、前掲証人秋山武の証言によれば、秋山弁理士は、前記発明協会に委託して、同弁理士が代理人として関与した出願につき発行される特許公報等の送付を受けていたところ、上記特許公報等は、一般に、その発行日から1か月ないし1か月半後に同弁理士の手元に届けられ、同弁理士は概ねその後4、5日のうちにこれを参照する例であつたことが認められるから、同弁理士が前記第2回公報(同公報の発行日が昭和46年6月14日であることは、前に説示したとおりである。)を参照したのは、昭和46年8月上旬以前であつたと推認されるのであり、そうだとすれば、同公報に出願公告日として記載されていた「昭和46年9月10日」は、同弁理士が参照した日より先の日付けであることになるから、同弁理士はこれが誤記であることを容易に知りえたものというべきである。もつとも、前掲証言によれば、秋山弁理士が前記第2回公報を参照した時期いかんについては、同弁理士の記憶は定かではないことが窺われるが、仮にその時期が昭和46年9月10日過ぎであつとしても(これが遅くとも同月14日以前であつたことは、同弁理士が前記第2回公報につき原告に報告したのが同月14日付け書簡である旨前に認定したことから推認できるのである。)、同弁理士は、前記発明協会から特許公報等が送付されてくるのは、その発行日から1か月ないし1か月半後であることを知悉していたのである(この点はさきに認定したところである。)から、前記第2回公報中の出願公告日の記載は、参照した日より先の日付けではないにせよ、早きに過ぎ、不自然であることを容易に知りえたはずである。のみならず、前掲甲第1、第2号証によれば、前記第2回公報の出願公告日及び出願公告番号の記載は、第1回公報のそれと、年次の点を除き、全く符合していることが認められるところ、上記の点は、前記第2回公報によつて改めて出願公告がされたとの観点からすれば偶然というには余りに不自然というほかなく、秋山弁理士としては、この点にも疑問を懐き、被告に照会するなど適宜の措置を講ずべきであつたということができる(ちなみに、前掲秋山証人は、前記第2回公報を入手して第1回公報と対照した際、奇妙な公報がきたという印象を受けたものの、格別の措置は講じなかつた旨証言している。)。加えて、前記争いのない事実及びいずれも成立に争いのない甲第9号証の1、2並びに前掲証人秋山武の証言によれば、被告は、昭和45年11月27日付け及び昭和47年4月14日付けの各特許査定謄本を秋山弁理士に送達したところ、これらの査定謄本には、いずれも「出願公告昭和45年9月10日(特公昭45―27751)」と記載されていたことが認められるところ、上記のうち、前者の査定謄本は、誤送であるとの理由で被告が原告にその返送方を求めたものであることは、当事者間に争いがないから、その送達に関する事実は、ひとまず考慮の外に措くとしても、後者の査定謄本の送達に関する事実は、事情として無視し難いものである(もつとも、前掲秋山証人は、上記後者の査定謄本における出願公告日等の記載を、被告の電算機による事務処理上の過誤に基づく誤記であろうと判断したとの趣旨の証言をするが、そうだとすれば、速断に過ぎるといえよう。)。

上記に説示したとおり、原告の出願人である秋山弁理士は、前記第2回公報中に出願公告日として記載されていた「昭和46年9月10日」に、同公報をもつて改めて出願公告がされたと誤信したものであるが、翻つて、秋山弁理士が前記第2回公報を入手した前後の事情等を合わせ考えれば、同弁理士は、同公報の出願公告日の記載が誤記であることを容易に知りえたものといわざるをえず、したがつて、同弁理士が上記のように誤信したことについては過失を免れないものというべきである。

ところで、前掲甲第1号証、乙第1号証(甲第2号証)及び成立に争いのない乙第2号証によれば、被告は、第2回公報による訂正の公示においても、前記のとおり出願公告番号及び出願公告日を誤載したため、昭和46年6月25日発行の第3回公報によつて、第2回公報による訂正を全部削除するとともに、改めて第1回公報による出願公告事項の訂正を行つたこと、第3回公報には、「公告日は昭和45年9月10日とする。従つて仮保護の権利の発生日、権利の存続期間の起算日は最初の公報掲載日となる。」との記載があることが認められる。しかして、原告は、第2回公報における出願公告日等の誤載は専ら被告の責に帰すべきものであること及び出願公告日いかんは出願人である原告の利害に重大な影響を及ぼすことを指摘して、被告は上記誤記の訂正を直接原告に通知するなどの措置を講ずべき信義則上の義務がある旨主張する。しかしながら、前記第2回公報における出願公告日の記載は誤記であることが明らかであり、かつ原告の出願代理人である秋山弁理士が上記誤記を容易に知りえたのであつて、原告主張のような誤信につき同弁理士の過失は免れ難いこと既述のとおりである以上、被告に原告主張のような通知等の義務があると解するのは困難というべきである。

原告の前記主張も結局理由がない

3  以上の次第であつて、被告が本件出願につき叙上のように一再ならず過誤を重ねたことは、甚だ遺憾というほかはないけれども、本件不受理処分に原告主張のような違法事由があるとすることもできない。よつて、これと異なる前提に立つ本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第89条の規定を適用して主文のとおり判決する。

(秋吉稔弘 安倉孝弘 裁判官佐久間重吉は転官につき署名押印することができない。秋吉稔弘)

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